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強直性脊椎炎

肢体の障害の中でも、脊柱のみに障害の範囲があるレアな事例のご紹介です。

事例概要

概要
男性・47歳(申請時点)
申請:平成28年
結果:(認定日請求)不支給 (事後重症)障害厚生年金3級



父が以前より強直性脊椎炎と診断されており、20歳の頃に遺伝性のものであるかどうかを検査するために父の通院していたA病院で検査を受けた。その結果、HLA-B27という強直性脊椎炎を発症しやすい遺伝子を持っていることはわかったが、この当時はまだ何の症状もなかった。

それから10年ほどが過ぎた平成11年に、発熱を伴って動けなくなるくらいの状態になった。それまでに父から話を聞いていたので、いよいよこの時に発病したのだろうと思い、B大学病院を受診し、正式に強直性脊椎炎と診断されるに至った。この頃には既に首や背骨の関節部位が完全に固まって動かすことが出来ない状況にまでなっていた。しかしながら、有効な治療法も特になく同院終診となる。なお、この折に障害者手帳も取得。

その後、強直性脊椎炎が難病指定となり、色々と調べているうちに障害年金という制度を知り、申請を考えるようになり、当事務所へご相談。

当事務所による解決

(初診日)

お話を聞いていると、A病院受診時は国民年金ですが、この頃には症状はなく、ただ、発症しやすい遺伝子を有していることが分かっただけであり、実際発症して受診したのはB病院で、この時点だと厚生年金でした。

初診日とその因果関係の考え方として、保険者側が良く使う論理ですが、「~の人の多くが~になるかどうか」という点です。この場合、「HLA-B27の遺伝子を持つ人の多くが強直性脊椎炎になるのかどうか」というところがポイントだったろうと思います。

毎度のことながら、医学的に正しい知識が求められますが、色々と調べていると、HLA-B27の遺伝子を持つ人の多くが強直性脊椎炎になるとまでは言えなさそうであるため、その点は重々注釈をつけたうえで、通常通り、B病院を初診として厚生年金として申請しました。実際この点は審査では争点にならず、認められました。



(認定日請求)

お話をお聞きするに、平成11年の発病及び初診のすぐ後には現在と同じく完全に脊椎が硬直している状態になっていて今に至るというお話でしたので、これは出来ることならば、認定日請求という形で申請をしたいものだなと思いました。

しかしながら、ネックとしては初診日から1年半後には受診をしておらず、障害者手帳の診断書も初診から2か月後とかにかかれているものでしたので、その点が微妙だとは思いましたが、その初診から2か月後の診断書をなんとか取得しまして、申請に及びました。

しかしながら結果としては、2か月目では症状固定していないとして不支給となりました。本件は審査請求に進みましたが、争点の1つはこの点でした。

(等級)

認定日請求は不支給となりましたが、事後重症分は3級として認定がなされました。しかし、診断書では、脊柱の可動域が全て0となっており、このような究極の状況で3級にしかならないのかというところの不服もありました。この点を第2の争点として審査請求に及ぶことになります。

(審査請求・再審査請求)

結果としては、最終的には2つともの争点が棄却されました。

まず、2か月目の段階では症状固定していないという点ですが、もともと、1年半以前に症状が固定するということについて障害年金実務ではあまり認められにくいところではあるのですが、しかしこれは、もう少し個別の事情に則しながら柔軟に見てもらえないものなのかというのは、ちょっとうんざりするところではあります。

本件でいうと、2か月目での診断書も脊柱の可動域が全て0になっていまして、これは医学的には竹様脊椎bamboo spine というらしいのですが、脊柱が完全に癒合して固まってまるで一本の丈が背骨に入っているような感じで全く曲がらないという状態になっているということになります。

で、2か月目でその完全に癒合した状態になったものが、その後またちょっと曲げられるようになったりならなかったりというようなことがあるのかということです。

要するに第一の論点については1年半後の診断書がないからだめだということのようですが、あまりに杓子定規に過ぎるというかナンセンスな結論のまま終了となりました。



また、等級の件については、やはりこれも棄却なのですが、素朴な出発点としては、脊柱の障害単体の場合MAXの等級は2級なのですが、数値的にはMAXのものが出ているのにそれでなぜ等級は3級どまりなのかということです。

この点やはり、審査側は愚にもつかないような理由を挙げておるのですが、曰く、確かに0度で強直しているけれども若干前かがみの強直だからそれは床のものを拾う時とかに便利だから不良肢位ではないから2級にならないというような主張です。

これは全く不見識な意見で、なぜなら医学的には強直性脊椎炎は重症であればあるほど前かがみになってくるということになっているからです。

また、本件に限らず、肢体の不良肢位という考え方が個人的にはよくわからないところなのですが、厚労省の外郭団体のようなところが出している書籍では

「たとえば、肘関節が90度の角度で強直するなら、まっ直ぐのまま強直するよりも、手を頭や顔や口にもっていくにの便利である。これに対して、肘関節が真っ直ぐに伸びたまま強直すると、生活上不便であり、こうした強直を「不良肢位強直」という。」

とされています。要するに90度で強直していたらご飯食べたり頭を洗ったりするとき便利だということなのでしょうけれど、逆に高いところのものをとったりとかできへんやん・・・と思うのです。こういう風に、関節が強直しているという場合でも必ず二面性があるものですから、それを片方だけ取り上げて「この角度は不良でこれは良だ」と保険者が決めつけるのが適切なのかというのは思います。本件でいうと前かがみは逆に言うと上を見上げることは出来ないわけですからそれはいいのかよ?というのは思います。



などなど本質的な問題を色々とはらむ論点で、まだまだ個人的には不服な結果で終わりましたが、とりあえず事後3級という最低限の結果だけでもあったのは救いです。

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