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精神疾患の障害の程度とその年金等級認定に関する一考察

障害年金における精神疾患の認定方法について

精神医療というものがまだまだ未発展段階だからなのでしょうけれども、内臓疾患における血液検査のような感じでは精神疾患の場合は障害の程度の軽重が絶対的な数値ではかれないものであります。
では、障害年金認定の実務上、1級、2級、3級、それ以下という4つの序列にどうやって分類するのかというと
(日常能力の判定)で以下の7つの項目をそれぞれ4段階で判定
1、適切な食事
2、清潔保持
3、金銭管理
4、通院服薬
5、対人関係
6、危機対応
7、社会性
(日常生活能力の程度)で5段階評価
と、数値化できないものをなかば無理やり数値化して、それを基にして認定が行われる仕組みとなっています。
そして、平成28年からは『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』が策定され、運用の在り方としてもそれ以前よりも良くなっているように感じています。

認定までの現実論

それで、日々の相談では、
「障害年金の申請をしようと思っているが、自分は何級になるか?」
ということをお電話で聞かれることが多いです。

これに対しては、うちも年次が浅い頃は上記の項目について、食事はどうですか、風呂は入れてますか、とかのように律義に1つ1つ聞いていってたりしました。
けれど、今となっては、現実が良くわかってきたというか、それはちょっと認定の現実からすれば違うなと思うようになりました。

というのは、例えば、上記「適切な食事」というのは、診断書にはこう書いています。
「配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできる」
かどうかということをできるからできないまでの4段階で評価することになっています。
ですけれども、健常者と言われる人でも、これが毎日できてる人などほぼいないんじゃないでしょうか?
私自身自分の食生活を振り返ってみてこれとは程遠いものだという自覚があります(笑)

ですので、むしろ、これまで、色々なお医者さんの様子を見ていると、これらの項目の1つ1つの中身にこだわっているというよりかは、目の前の患者を前にして、これまでその人を診てきた実績から「この人は〇級だなー」という結論がまずあって、それに合うように診断書を作成しているというのがほとんどのように思います。

更に身も蓋もない話

そこで、ご相談でうちに等級についての見解を求められた場合には、次のようなことをお聞きしています。
・まずは障害者手帳を持っているか持っていないか、持っていれば何級なのか。
これは、もちろん、手帳の等級と年金の等級が必ず一致するわけではありませんが、主治医がその人のことをどう診立てているのかということの目安になります。

・持っていないとして、主治医の感触もわからないとして、今行っている病院はどこなのかということ。
以下、ぶっちゃけた私の感想というか、独断と偏見も多分に含むかもしれませんが、おおまかに言ってしまうと、
①1級の人向けの病院
②2級~3級の人向けの病院
③3級~それ未満の人向けの病院
というカテゴライズが暗黙の了解で存在しているということなのだろうということです。あまりに身も蓋もないので誰もはっきりとは言わないのでしょうけれども、そういうことだと思います。
具体的にどこかというのは言いませんが、それぞれについて説明しますと

①は、もう、隔離病棟というか、出入り口に警備員が常駐しているようなクラスの、そういう超重篤な方がいっておられるようなところのイメージです。
今夏ちょうどこのカテゴリーに属するであろう病院へ書類作成のことで行ったのですが、まず、その病院自体が町から隔離されている感があり、ギリギリ車が通れるかどうかの細い道を延々と運転していきました。
病院に近づくにつれ、道端には監視カメラがいくつも設置してありました。その意味はよくわかりました。
そして病院に入ると、もう、見たらすぐわかるくらい重症な感じの患者さんがたくさんいらっしゃいました。私は書類の申し込みのため待合で待っていたんですが、スピリチュアルなものは普段はあまり私は感じないんですけれども、その待合の空間のあまりの空気の重さみたいなものがあり、それに耐えきれず、何度も屋外に出て外の空気を浴びました。するとやはり、屋内の患者さんがたくさんいらっしゃるゾーンと比べ空気が軽くなっていることを実感しました。
①はそういうクラスの病院というイメージです。
ちなみに、少なくとも障害年金申請のご相談で、本人がうちに電話をかけてきて、まずまず状況も説明できているという時点で1級というのはまずありえないと思います。1級というのは、意思疎通など全く期待できないレベルの患者さんのためだけのものだと思いますし、実際のところ、うちではこれまでほとんど精神単独で1級という方はいらっしゃいません。

②のカテゴリーというのが、うちで依頼をお受けする場合のメインということになります。具体的にそれがどこかというのも書きませんが、長くこの仕事をやっているとまあ大体わかってきます。

③のカテゴリーは2種類あると思いますが、一つは軽症(ちょっとだるいんですくらいの)レベルの方向けのところで、イメージ的にはオフィス街とかターミナル駅とかの近くにある小綺麗なビルに入っている、小綺麗な外観内装のクリニックという感じで、仕事終わりの会社員がちょっと寄るくらいみたいなのを想定しているところ。
もう一つは、病院の医師の方針として障害年金の診断書は書かないとしているところ。この種類のところもいくつか思い浮かぶところはあります。かつては私も、こういうようなスタンスのクリニックは酷いなー!と憤っていた時期もありましたが、いまは見方が変わりました。

そういう医師に直接真意を聞いたことはないですが、ちなみにかつてこういう事例がありました。
依頼者さんが診断書の依頼をしたところ、主治医はその時点で既にキレたと。そして、一通りキレられた後
「おう、わかった、診断書書いたるわ(怒)。でもな、その代わりお前もう二度とうちの病院来るなよ!!!障害年金受給するような患者はうちでは要らんのじゃ!!!」
と言われたということで、私もドン引きしました。

けど、おそらくその医師の考えというか真意としては「うちはカテゴリーでいえば③であると自認している。よってうちで事足りてる程度の症状の人に障害年金なんて出るはずがないし、出るというような症状の患者はうちの患者としてはふさわしくないというか適合してない」ということなのだろうと、今になってはそのように私は理解しています。
いずれにせよ、障害年金のことを考えるならば③ではやはり話にならないということになります。

当事務所から具体的にどこそこの病院へ行ったらどうですかというような紹介とか案内をするのかという話

そして重要なのは、精神疾患の方は皆それぞれの程度に合った病院に収束するようになっていると思われるという点です。
収束するというのは、つまり例えばですが、①に行かなければいけない程度の人が何故かひょっこりと③のところへ行ったら確実に「いやいやうちでは手に負えません、①宛の紹介状を書くからそこへ行ってください」というような話になるでしょうし、③で事足りる人が①に行ったりしたら完全に場違いだというのはすぐわかりますし、逆に③宛の紹介状を渡されて帰ることになるでしょう。

ちなみに、どことは言いませんが、あるところに、イメージとしては①~②クラスというカテゴリの病院(A病院とします)があり、そこから歩いて1分程度ですぐ見えているところに③クラスのクリニック(B病院とします)があるところがあります。ある時、そのB病院に通院している方から医師が診断書を書いてくれないと相談を受けたことがありますが、こういうのはAとBで暗黙の了解があって、相互に紹介しあったりもしているのでしょうから、Bの主治医がAに紹介していない時点で、それはあなたが軽症と言わざるを得ないんでしょうね、というような話をしたこともありました。
なお、「Aへ行ってみたらどうです?」と私が言いましたところ、その方は「Aはおどろおどろしいので行きたくない」とのことでした。しかし、Aがおどろおどろしいと感じるのであればそれはやはり軽症と言わざるを得ないのだろうと思います。

だから、結局のところ各医療機関では、自分の病院がどのカテゴリーなのかというのは、はっきりとは言いませんけれども、薄々自覚はしているところなのだろうと思ってます。つまり一応建前上はどの病院も平等ということになっているのではっきりとはいえないけれども、患者とか社労士とかもその辺忖度してくれたまえよということなのだろうと思います。

そして、③に行っている方から「障害年金の診断書を書いてくれる病院を紹介してほしい」みたいなご要望を当事務所に言われる相談者さんもちょくちょくいらっしゃいます。けれど、上記の収束の仕組みから言いますと、③へ行っている人がそこでは事足りないほどの症状になったとしたら、誰かから②へ行くようにという話も出るはずです。その誰かがうちなのだとしたら、紹介というほどの事ではないですけれども、その方の住所をお聞きした上で、思いついた範囲内で「近くに〇〇病院がありますけど、そことかどうですか?でも行ってどうなるかは何とも言えませんけれども」程度のサジェスチョンくらいが精一杯かなと思ってます。

でも、こういう風に紹介を求められても、諸々責任が持てませんし、各医療機関からクレームとか入る恐れもありますので、紹介を求められること自体重荷に感じてますし、ご自身の責任で探してほしいというのが本音です。

医者の診立ては正しいか

よくあるご相談
「障害厚生年金を申請したけれども、3級という結果だったが、3級では不服である。どうも主治医の診断書の書き方が軽いようだ」
というようなものがあります。
で、私も診断書を見てみると、まぁ3級かなと思えるものであるし、私が実際その人と話していると2級でもおかしくはないが、でも3級でも著しく不当とも思えないというようなケース。

この時、なぜこの相談者がこのように不服感を感じるかというのを分析してみたのですが、恐らく冒頭に書きました通り、精神の診断書の場合、例えば内臓疾患の場合と比べても医師の主観による部分が大きいとこの方が感じており、そしてその主治医の主観が信用ならないと感じているからだと思います。

つまり、例えばこの方が精神疾患ではなく、何かの内部疾患であったとして、血液検査で何かの数値が
100未満の場合:1級
100~200の場合:2級
200~300の場合:3級
と定められていたとします。そして採血して機械にかけたらそれが210だったとします。
この場合、それでもこの方は3級なのは不服であるというのかというと、そうはならないんじゃないかと思うのです。
すると、やはり精神の場合は医師の主観に左右される部分が大きいし、かつそれを信じられないという面があるのではと。

で、更に言うと、主観による部分が大きいのでそれは上記の例のように機械でわかる部分とは違って左右しうるものではないのかと。
で、社労士がその部分を左右できるのであればしてほしいというご要望を含んでいるんだろうと思われます。

医師の判断基準について

まず、主観によるブレというのは、各医師間で隔たりがあるかというと、やはりそれは存在すると感じています。病名そのものが違っていることもあります。ですので、納得がいかなければ転院してみるというのはアリだと思います。

ただし、個別の医師の中での判断基準というのはブレはないというスタンスでやっておられる医師がほとんどだろうと思います。
以前こういう話を聞いたのですが、ある依頼者さんが障害年金を申請して認定されたので、主治医の精神科の先生にご報告とお礼を伝えたところ
「いや、私は事実をありのまま書いただけなので礼には及びませんよ」と言われたとのことでした。
要するに、精神疾患については一見そうは見えないかもしれないけれど、でも実際には上記の血液検査の例と同じで客観的で左右されないものなんですよという意味だと思うのですが、なるほど各先生方の中には確固たる判断基準があるものなんだよなあと思いました。
ですので、同じ先生に「もっとここをこういう風にしてほしい」みたいに言っても無駄な場合がほとんどだと思いますし、それは私も年次が浅い頃にいろいろやってみた実体験としてもそう思います。

社労士にできること

また、社労士が等級を左右できるかということについては、それは本質的には無理だと言えます。
少し前に、「2級をとれる社労士をさがしてあちこち電話している」という電話がありましたが、何か勘違いされていると思います。
3級の人は3級だし、2級の人は2級ですから、3級でしかない人を2級にするとかいうのはうちだけではなくどの社労士でも不可能です。
イメージとしては、社労士の仕事としては、依頼者さんがでこぼこ道を通って目的地へ行こうとしているところを、その道をきれいに歩きやすいように舗装し、並走しながら一緒にスムーズにゴールを目指そうという感じです。その途中で一段上の目的地があってあわよくばそこに行けそうであればそのための手筈も整えますよという感じかと。
ですので、そもそも道が存在していないとか、目的地が存在していないとかだとどうしようもないですし、また、強引に捻じ曲げるみたいなのも間違っています。
具体的には、医師とのやり取りで言いますと、医師への情報提供はできたとしても、何級で通すようにしてくれみたいな働きかけはアウトだと思ってます。先日もある医師から「診断書に予めこう書けとえんぴつで印をつけているような社労士がいたがこんな無礼な話があるか!!」と怒っておられました。私も同感です。こんなことをしていると社労士全体が怪しい存在とみなされてしまうので、そういう社労士は即刻退場してほしいと思ってます。

医師はいろいろ見てますよ、あなたがそう思えなくても、という話

また、冒頭の相談者さんの中では、医師に対する猜疑心もあると思うのですが、これについても頭から否定するというのは違うだろうと思います。専門の医師の診断ですから一旦は傾聴すべきだと思います。
これに関しましてはこういう事例がありました。
上記で、うちで精神単体で1級となった事例はほとんどないと述べましたが、実は1件だけあります。
その方は統合失調症の方で、不安定感は私にもわかりましたが、でもとりあえず十分ではないが意思疎通も図れる方でしたし、陽性症状も私の接している範囲ではなかったように思いましたが、診断書を見ると1級相当で、実際そうなりました。通ってよかったものの、でも私は何だか先生が診断書を重く書きすぎているんじゃないか、という印象を受けました。
しかし、その数か月後、その方は信じられないような、状況を聞いても意味不明なとんでもない大事故を起こされて、結果片足を切断されました。その時思ったのはお医者さんはこういうことをリスクとして予見していたからあそこまで重い診断書を書いておられたんだな、やっぱり私含めて素人にはわからないところまで見通しているものなんだなということでした。
ですので、医師の診断書が思ったものと違っていると素人が感じても、やっぱりそれは素人の考えであるというのも真理であるとも思います。

ご依頼ご相談は地元の社労士へ!

この流れでついでに言いますと、上記のように各病院での特色があると思いますので、結局は依頼するならば地元の社労士を選ばれるべきかと思います。やはりその土地土地のことは、土地土地の社労士が詳しいはずですので。
何でなのかよくわかりませんが、例えば兵庫県の方がうちじゃなくて東京とかの社労士に依頼していることもあったりしますけれども全く合理的ではないと言えます。
逆にこれも何でなのかわからないのですが、例えば関東の方からうちに相談の電話があることもありますが、こちらとしては一般的なことならともかく、関東のどこどこの病院へ行っているとか個別の事情を聞いても全く情報がないのでコメントのしようもなく「地元の社労士さんに依頼されることをお勧めします」と言って終わることもあります。

おわりに

その他には、別記事でもちょくちょく書いてはいますが、就労中なのかどうか、家族構成、制度(厚生年金か国民年金か)、発病のきっかけなどなど細かくお聞きした上で当事務所の見解を述べさせていただいています。
色々書きましたが、それでもやっぱり精神疾患の等級認定はどうしてもフワフワしているので、出来るだけフワフワしているところをわかりやすく書いたつもりです。今後も精進します!