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障害認定日請求(いわゆる遡及請求)について

はじめに

簡単に説明しますと、障害認定日請求とは、障害認定日まで遡って受給権発生の認定を求める申請方法です。これが認められる場合には既経過分の年金が一括で受給できることになります。ただし、会計法上支分権には5年の時効が定められていますので、5年以上前の期間に係る年金については受給できません。

従いまして、そうなりますと一括で大きな金額が支給されることとなりますので、この方法で認定された場合には非常に経済的にメリットの得られる制度ということになります。

しかし、そうであるがゆえに、ここ数年、この遡及請求に関してあまりに申請者の射幸心をあおるようなコマーシャルを展開しているような品位を欠く社労士事務所もあります。例えば「一括で1000万円もらえます!」みたいなものです。もちろんそういう場合もありますが、当然自分も必ず1000万円がもらえる→もらえないのは不当、これをあてにしよう→当てにしていたのにもらえないのは困る、みたいに思考される方が出てくるのは当然だと思います。
その結果、持ち上げられた後にがっかりさせられているような人もいらっしゃって、そして当事務所にも何度も繰り返しご相談をされる方もいらっしゃったりするため、はっきり言って難儀することも多いというのが実態です。
煽るだけ煽っておいて制度に関する正確な案内もなしというのはちょっとそれらの事務所は酷いのではないかと個人的には思います。

ご相談を聞いていてそれらの方から感じるのは、自分が不当に損をしている、もらえるものをもらえてない、そしてその金額が大きい、ということでこだわりがおありなのだろうなという気もします。
ですので、ご自身の考えをまとめるための一助となればということでこのコラムに記したいと思います。

障害認定日請求(遡及請求)が出来ない・もらえないパターン

遡及請求が出来る場合のイメージ
制度上あるいは事実上、障害認定日請求が出来ないケースをパターン別に解説します。

例として、2019年1月が初診で、その1年半後の2020年7月が障害認定日で、今が2021年10月とします。
その場合、受給できるパターンというのは、イメージとしてはこのような図となります。

つまり、障害認定日時点の症状が等級認定されそうなほど重く、かつそのことを証明できる場合ということになります。

①障害認定日時点での障害の状態が証明できない

これは障害認定日の診断書が取得できないという原因がメインです。主には障害認定日時点のカルテが医療機関で保管されていないために取得できないというパターンが多いと思います。
あるいはカルテ自体はあっても、必要な情報が充分ではないケースなどもあろうかと思います。内部疾患や肢体障害の場合の各種数値などです。例えば血液の病気の場合デューク法と言って、耳たぶに傷をつけてその出血が何分で止まるかといったような検査項目が必要となる場合もありますが、毎度毎度そのような原始的な検査をしているということは通常はないと思われます。
それと、医師法の規定があるため医師には診断書作成義務があるとはいえ、例えば昭和とか平成一桁台の診断書の作成を求められた医師があまりに昔のことなので「何のことやら・・・???」と戸惑う場合があるというのは、当職としてもまあ理解できないことはない感じはします。

ただ、診断書がなくても障害状態が認定されるケースというのもあります。(当事務所の事例だとこちら。また知的障害に係る認定日請求について診断書がなくても認定が得られた判例(東京地判H25.11.8)もあります。)。
しかし、それらの場合でもスムーズに認定が得られるかというと難しいと思いますので審査請求あるいは訴訟まで見据えて取り組む必要はあると思います。
またそもそも大前提として、カルテがない中である程度以上障害認定日頃の状態がはっきりしていると言える根拠は何なのか説明できるようでないと難しいものがあると思います。

②障害認定日時点での状態が軽かった場合

遡及請求出来ない場合のイメージ図
当然のことながら、診断書が取得できたとしても、その時の症状が等級に該当している必要があります。

ご相談としてよくあるケースは、障害認定日の状態は軽かったが遡及分はもらえないだろうかというものです。上図①のような場合ですが、これでは無理です。

それと関連して、障害認定日時点では軽かったが、その後悪化、それからしばらくして今に至るというケースで遡及できるかというご相談もよくありますがこれも無理です。(上図②)
例えばですが、初診は糖尿病で2019年1月とします。特に際立った症状はなかったがその後2021年1月から糖尿病性腎症により人工透析開始。今(2021年10月)に至る。このような場合に、透析を開始した2021年1月まで遡れないかというご相談がよくありますが無理です。

この場合障害認定日は2020年7月となりますので、遡るならばそこまで遡るということになります。するとその時点では単なる糖尿病であるためです。好きな時点まで遡れるという制度にはなっていません。
それは理不尽ではないかというお話をされることもありますが、透析を開始した2021年1月の段階で事後重症にて速やかに申請すべきであった事例ということになります。現実論としては厳しいお話を申し上げているということになるのだろうとは思いますが、その時点で申請していなかった自己責任であるという結論となります。

③既に事後重症での受給権発生時から5年経過している場合

例えば、平成20年4月に事後重症で受給権発生し今に至るという場合ですが、それで今(平成28年9月)認定日請求できるかというご相談もよくありますが、恐らく誤解が前提としてあると思います。
このケースでも状況によっては認定日請求だけを後から行うのも可能です。しかし、請求を平成28年9月にしたとすれば時効にかかっていない部分というのは平成23年8月分以降の分となります。その分というのはもう既にもらっているわけです。二重にもらえるわけではありませんので、やる意味がないということになります。↓

まとめ

当事務所のスタンスを申し上げますと、認定日請求については出来るなら全力でやりますし、できそうかどうかというのは毎度ギリギリまで検討しています。そしてその上で出来ないとわかったら、出来ない理由をご説明して早急に事後重症をやるというスタンスです。
中には、遡及分がもらえないなら事後重症もしないとまで言う方もいらっしゃいますが、そういう考えは改められるべきかと。結局はそれが積み重なって、もらえていない分について「もったいない」と思う気持ちがずっと尾を引いているわけですからどこかで早急に断ち切るべきです。

煽られた後に落とされることによって病状が悪化している方もお見受けしますので、今までビジネスの観点からヘンに持ち上げてきた社労士に対しては本当に憤りを覚えます。
いずれにせよあきらめるべきことはあきらめて今後生活された方が精神衛生上よろしいと思います。