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医師が診断書を書かない場合~医師法解説~

はじめに

障害年金申請において、通常は診断書や受診状況等証明書などの医療機関で作成してもらう書類は必要となります。
しかし、スムーズに作成してもらえる場合ばかりではありません。なぜそうなるのかについても、いろいろなケースがあると思いますが、何らかの理由はあります。まずその理由を聞いてみましょう。

私が感じる、医療機関による作成拒否理由としては次のようなものが挙げられると思います。
1、めんどくさいから
2、責任を取りたくないから
3、心情的なもの(働かずに金をもらうということ自体がけしからんというような)
4、症状が軽いから書けませんという場合
5、受給するのが本人の甘えにつながると考えている

というようなものがあげられるのかなと思います。
4と5は本当にそうであるならば医学的な観点から是認せざるを得ないのだろうなと思います。ただし、病院を変えてみて、他の医師の見解も聞いてみるのも一つの手かもしれません。

1~3については、法的なことを言いますとそれを理由に拒否するというのは医師法違反であると思われます。

医師法解説

医師法について、障害年金の申請において問題となる条項について解説したいと思います。

第十九条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
2 診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。

診断書の作成義務というのはこの第19条2項に記されています。
つまり、上の1~3の場合というのは通常はここでいう「正当の事由」には含まれないと解されると思われます。
診断書作成することまで含めて医業を行いなさいよ、という前提で国は各医師に免許を発行しているわけですので、1や2のような責任放棄的なもの、3のような各医師の個人的な主義主張の類を理由に義務を放棄したいのならばライセンスは返上せねばならないだろうと思います。

それから、診断書等の作成を依頼した場合に事務方から
「書けるかどうかは先生のご判断です」
というような説明をされることもありますが、これも法的には根源的に勘違いをなさっておられる発言です。
「データが不足しているのできっちり検査してからですね」というのはわかりますけれど、書くか書かないか決める権利というのは医師にはなく、求めがあれば拒めないのです。

第二十四条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。2前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。

次にいろいろ問題になるのは診療録(カルテ)の保存義務の話です。「5年保存」という言葉が独り歩きしているのか、相談者様も行政機関も医療機関も様々な独自の解釈をなさっている場合が多いという印象がありますので、条文に立ち返ってまとめてみたいと思います。

第24条2項には「五年間これを保存しなければならない」とされており、それだけです。
「5年経ったら破棄しないといけない」という意味ではありませんし、「5年経ったら効力がなくなる」という意味でもありません。

医師法に限らず、多くの業法等では書類の保管義務について定められていますが、もともとの趣旨としては紙の保管場所は有限だからある程度の期間で区切ってそれ以前のものは破棄してよい、という趣旨で定められているものです。
現実論としてはコンピューターがこれだけ発達して、電子カルテもかなり普及していますから、少なくとも電子カルテを用いている医療機関においては5年経過したからと言ってデータを破棄する必要性もないと思いますし、そうするのは逆に不自然ではないかと思います。実際、平成10年くらい以降のカルテは残されている医療機関がかなり多いという印象が個人的にはあります。

なお、はっきり言うと、この規定を変に悪用して業務量を減らそうとしている医療機関もあるので注意が必要だと思います。
例えば19条と24条の組み合わせで
「5年以上前の診断書についてはカルテの保存義務のない時期のものだから作成する義務がない」
とか、悪意があるのか不勉強なのかわかりませんが、まー、けったいなことをおっしゃるなぁという医療機関もありますが、ここまで解説した通り、そのようなことはどこにも書いてません。

ただ、これらの違反に対しては罰則はありません。行政指導の対象とはなり得るでしょうけれども、保健所に相談したこともありますが実際のところ動きは鈍いです。

おわりに

上記の解説はあくまで法的な観点からのみのものです。
実際に何も考えずに頭ごなしに主治医にこういう話をすると関係性が悪化することは間違いありませんので、使う時と場合はよく考えてください。まずはなぜ書けないのかというところからよくお話し合いをされることが肝要だと思います。