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働きながら障害年金を受給できるか?

はじめにまず当事務所の結論

初めに当事務所の結論から言いますと、
「そういう場合もありますが、いかなる場合も可能であるとまでは言えない」
です。

実際のご相談では、個別の細かな事情をお聞きした上で当事務所としての見解をお伝えさせていただいております。

多くの社労士事務所で
「働きながらでも障害年金が受給できます」
と大々的に謳っているのですが、当職としてはそれらの社労士はもう少し丁寧に説明をするべきだと苦言を呈したいところです。

憲法もしくは世の中の仕組みからの考察

社会保険及び労務法令について体系的に考えれば考えるほどやはり原則的には難しいだろうなというのが結論なのですが、大上段の問題から整理してみようと思いました。
それはもちろん日本国憲法です。

まず
第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
という規定があります。

そして、
第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
という規定があります。

つまり、日本国政府は国民に食わせる義務があるわけですが(25条)、具体的には働いて賃金を得て生活しなさいよ、で、そのための環境整備義務が政府にはありますね(27条)ということです。
まぁ、憲法云々言わずとも常識的な世の中の仕組みです。

で、これが原則論ですけど、でも、さぼってるとかじゃない諸々の理由で、27条の勤労の権利及び義務を実行することができない人もいます。
1、高齢者
2、失業者
3、障害者
が挙げられます。

これらの方々に対して政府は25条の義務を果たすべく、強制加入の保険という形で、社会保険及び労働保険制度を設けているわけです。
1は老齢年金。
2は失業保険です。特にクビになった方とか会社が倒産してという方にはすぐに給付が得られる仕組みです。ですが当面はそれで金銭を受給しても、早く仕事を見つけてねというシステムになっています。
3は障害年金です。
また、労働者ならば1年6か月までは傷病手当金という健康保険の制度やもしくはその原因が労災ならば労災保険による補償も得られるということです。

更に、これらの保険の制度を使えない(年金を未納にしてるなど)あるいは使ってもなお不十分だという場合には、保険ではなく税金を投入する仕組みをとっています。つまり生活保護です。

法令レベルでの理由

改めまして、障害年金には1~3級までの等級があるのですが、それぞれの基準としては以下のように定められています。

(1) 1 級
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能なら しめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができな い程度のものである。
(2) 2 級
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制 限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとす る。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを 必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて 困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。
(3) 3 級
労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度 のものとする。

これを素直に読むと、少なくとも2級に該当するためには、就労できない程度であることが求められるわけです。
ただ、3級というのはあり得ると言えます。

障害認定基準及び診断書の作りからの理由

上記法令の定めより実務上さらに細かい障害認定基準がありますが、内部疾患などでは一般状態区分という考え方があり、以下の5段階で評価がなされます。

ア 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふる まえるもの
イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業は できるもの 例えば、軽い家事、事務など
ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、 軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
エ 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中 の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能とな ったもの
オ 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、 活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

認定としては、やはり前段落で述べた考え方に則っていて、ウ以上ならば2級となりえますが、イならば3級にしかなりえないように決まっています。つまり、読んでいただくとわかる通り、イではまあまあ軽労働は出来るもののウでは軽労働もできないものであるので、やはり2級となるには就労していない状態というものが求められるわけです。
また、精神疾患の場合もガイドラインの考え方から言うと大体同様と考えられます。

ただ、逆にそれ以外、つまり肢体障害や眼や聴覚や言語やそしゃくなどでは就労しているかどうかは細かくは問われない仕組みになっておりますので、そこが仕組みとしてはいびつであるとは思いますし、不公平感はあるところです。

また、内部疾患でも人工透析実施中などのような特別な規定がある場合ならば話は別となってきますが、この辺も標記の問題をややこしくしているところです。

というより、はっきり言ってしまうと、大々的に働いていてももらえますと謳っている社労士事務所はこういう人工透析とかの特別な規定にはまるような案件を多くやりたいという意図があるため、というのもあると思います。

問題の方向性について

以上のようなことから、当事務所では相談者の方についてどのような病名でどのような症状があるのか、申請する制度は何か(基礎なのか厚生年金なのか)、働いていると言ってもどのような仕事をどれくらいやっていて給料はどれくらいなのかとか、というようなことを踏まえた上で個別に見解を述べさせていただいています。
あまりに「働いていてももらえます」ということだけが独り歩きしている感がありますが、そう単純な話ではないというのが当事務所のスタンスです。

『年金相談』第11号の各事例の批評

『年金相談』(日本法令)という専門誌において、特集が組まれています。ただ、読んでみましたが、やはり結論としては3級という事例が多いように思います。
当職も就労中で3級というのはあり得ることだと思います。上記の基準で言うと3級は就労中で労働能力減退分を補償するという意味合いが元々あるものだからです。
しかし、3級というのは厚生年金だけの制度ですから、逆に言うと相談段階で「基礎で、就労中で、内部疾患で」ということになってくると、一般的には難しいということになってくるだろうと思います。


現実問題として思うこと

特に精神疾患の相談において、こう言っては何ですが、お電話でお話していても明らかに呂律が回っていないなどの重症で労働能力があるのだろうかと思えるような方でも就労されている方もいらっしゃいます。

現実問題として、業種別に多いと感じるのは介護です。介護業界は慢性的に人手不足という現実があるので、これもこう言っては何ですけれども、比較的どんな方でも採用されてしまうという現実があるのだろうなと思います。

そういう現実問題があるというのはわかるのですが、しかし、個人的には介護されている人が障害年金をもらうというならわかるのですが、介護している人がもらうというのはどうなのだろうかというのは思います。

一方で、労働能力のなさそうな人でも雇うというのは、それは障害の程度の問題とはまた本来関係のない話ではないのかとも思います。要するにそのことは申請者側の問題ではなく、専ら会社側の事情の話しであって、現に就労しているかどうかということとは切り離して障害の程度が判定できないものなのかという風にも思います。でも審査する側としてはチェックポイントとしてわかりやすいところなのかもしれません。

ベーシックインカムの議論との絡みで

とある障害者施設の方とお話をしていて
「障害年金で月6万5千円と例えばアルバイトで6万5千円で計13万円ならまぁまぁ生活していくことは可能でしょう」というお話を聞いたことがあります。
個人的にもまあ人ひとり生きていくにはそれくらいの収入は最低でも要るよなあ、という感覚なのですが、おそらく行政側はそういう考えではないです。
例えば衆議院選挙で小池百合子率いる希望の党がベーシックインカム制度を公約に掲げましたが、大体ベーシックインカムの議論というのは月6~8万円を支給するということです。つまり、ほんとに最低限の金額としてはこれくらいあれば生活できるというのが一般的な考え方という前提で議論が進んでいると言えます。だから、障害年金に話を戻しますと、障害年金以外で6万円程度以上の収入があるならばそれで十分だと行政側から思われる余地はあるということです。

制度の在り方についての提言

このように、国としては、どうしても障害の程度の問題を労働能力が残存しているのかとか実際に就労しているのかということとと絡めたがります。しかし、障害年金、特に障害基礎年金の場合だと1級か2級か不支給かというせいぜい3択しかありません。そうすると2級と不支給のメルクマールが保険者のこだわっている働いているか否かというところになるのだとすれば、0か100かという問題になってしまうのがなんだかなぁと思います。

ですので、個人的には就労のことと障害年金のことを保険者が絡めるならば、在職老齢年金と同じ仕組みにすればよいのではないかと思っています。
在職老齢年金とは、老齢年金を受給している方が就労している場合に、その報酬額に応じて年金額がカットされる仕組みです。この場合とコンセプトは同じはずです。
障害年金の場合もオールオアナッシングにしてしまうのではなく、労働能力のことと障害の程度のことは一旦分けて考えて等級認定した後に、その労働能力(≒収入)に応じて段階的に年金額を調整していくとする方がよほど制度としてはいびつさが解消されてすっきりするのではないかと思います。