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審査請求

肘関節の人工骨頭(※情報募集中)

2018年(H30年)頃からの傾向のように思いますが、肘関節の人工骨頭置換事例において不可解な決定が続いておりますのでご紹介するとともに、このサイトをご覧の方で類似事例がございましたらと思い掲載します。

事例

ケースその1
男性・41歳(申請時点)
申請:平成30年
結果:障害手当金相当であるが、労災一時金を受給しているため不支給とする決定→(審査請求)障害手当金相当でかつ治っていないものとして障害厚生年金3級(14号)とする→(再審査請求)障害厚生年金3級(12号)には該当しないとして棄却

概要
平成27年11月に労災事故により右肘を負傷し、その後平成28年5月に肘関節橈骨部分に人工骨頭置換術実施。労災の給付と併せて、その後平成30年6月に障害厚生年金の申請も行ったが、上記理由で不支給となる。その後同年12月に当事務所へ依頼し、審査請求を進めることとなる。

ケースその2
男性・49歳(申請時点)
申請:平成31年
結果:障害手当金相当であるが、労災一時金を受給しているため不支給とする決定→(審査請求)棄却
概要
平成29年1月に労災事故により右肘を負傷し、その後同年7月に肘関節橈骨部分に人工骨頭置換術実施。労災の給付と併せて、その後平成31年1月に障害厚生年金の申請も行ったが、上記理由で3級にはならないという結論となる。その後、令和元年10月に当事務所へ依頼し、審査請求を進めることとなる。

事例

当事務所依頼後の経過

障害認定基準では、「一上肢の 3 大関節中 1 関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの」は3級と認定する旨が規定されています。

いずれのケースも、裁定請求自体は請求者ご自身で行われたケースなのですが、この人工体を関節に入れた場合の規定自体は、障害年金を扱う社労士にとっては常識的なところですから、本件でなぜ認定がなされないのか疑問がありました。

特にケース1の依頼者様の場合では、書類を拝見した段階ではやや丁寧でないところがあったので、そういうところが原因なのかなとも思っていました。
しかし、審査請求をすすめて、保険者や審査官らが述べるところでは、

この規定は、「1関節」とは本件では右肘関節ですが、この肘関節の構成部分全てが
人工体に置き換わっていないといけないので、橈骨部分だけではこの規定は適用されない

という理由でありました。

肘関節の仕組み

  • 肘関節は、上腕骨と尺骨と橈骨の3つで構成されています(上図参照)。

    このうち、上腕骨と尺骨のつながりで要するに肘の曲げ伸ばしの運動を行います。
    橈骨は、旋回と言って、要するに手の平を返すような動きを司ります。

    そして、肘関節のうち、上腕骨と尺骨はセットですから、肘の曲げ伸ばしの部分に損傷がある場合には、上腕骨と尺骨に人工関節を入れることになります。
    橈骨の場合には人工骨頭をいれることになります。

審査の疑念

  • 上肢に係る障害認定基準においては、「一上肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したものや両上肢の3大関節中1関節以上にそれぞれ人工骨頭又は人工関節をそう入置換したものは 3 級と認定する」との規定があります。

    審査側の見解を平たく言うと、肘関節とは3つの構成部分で1関節➡だから、橈骨だけだったら1/3関節だからアウト、ということのようです。
    ぶっちゃけた感想としては、ホントにしょうもないなとおもうような屁理屈だなぁと思いました。

    何にせよ、障害年金を扱う社労士にとっては、この規定は常識的なものですから、人工骨頭で3級とは認められないという事実は驚きでした。
  • このような取り扱いの不当なところは、人工骨頭とは、上記のように元々橈骨という関節を構成する3つの部分のうちの1つに挿入するものだから、3つともに人工骨頭が入るわけがないじゃないかという点が挙げられます。
    逆に言うと、人工骨頭で3級というのはどういう場合があるのですか?という話になってくると思います。
  • 実は、懇意にしている同業者に聞くと、やはり同じく平成30年頃から同じような事例がいくつかあるということでした。

    ですので、個人的には、日本年金機構の方でこっそりとそういう扱いに変更したのではないかという疑いを抱いています。

    ただ、一方で、人工関節ないし人工骨頭の手術例を見れば、やはりうちの受任例でもそうですが、股関節や膝関節の人工関節という事例が圧倒的に多く、肘関節の事例というのは実は今回の事例が初めてでした。

    ですので、今回ご自身あるいは他の社労士事務所に依頼されて、その結果ダメだったからたまたまうちの方にお声がかかったということなのか、もっと前からそういう取扱いだったのかは確認のしようがないというところがあります。

    もし、肘関節の人工骨頭のケースで受給されている方あるいはやはり同様にダメだったという方がいらっしゃったらお知らせいただければ幸いです。

卑怯なその後の展開

  • 2021年3月日本年金機構はこの問題に関するパンフレット(???)を作成しました。

    「肘関節については、上腕尺骨関節に人工関節をそう入置換した場合は、3級に該当します。」
    「上腕橈骨関節の橈骨頭に人工骨頭をそう入置換した場合は、障害認定基準(3級)に該当しません。」
    とされています。
    https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/01.pdf

    これはおそらくうちで携わった2件含め全国で同種のことで波紋があったのでその後処理のようなことで出したのだろうと思われます。

    しかし、こういうペラ紙1枚で「そういう扱いにしたのでヨロシク~!」みたいにして済む問題ではなかろうと思います。

    というのは、障害認定基準というのは、改正する際には一応専門家検討会を開いて、改正点について議論し、それを経て改正されるという手順が踏まれます。
    本件で言うと、「このように橈骨だけ置換だったらダメだというところの合理的な理由は何なのか?」というようなことが議論されるわけです。
    こんなペラ1枚で済ますというならば何でもありの世界になってきます。

    また、逆に言うとこのペラを出したことで
    やっぱり「それまでは人工橈骨でも3級としていましたが、こっそり扱いを変えました~」と言っちゃってるようなもんじゃないのか?という風にも思います。

    余りにもやり方が姑息としか言いようがありません。

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